- 美味しいものが食べたい
- ゆっくりと昼寝したい
- お金持ちになりたい
- 話題のゲームで遊んでみたい
- 友達と仲良くしたい
私たちはいつもたくさんの「〜したい」「〜がほしい」に動かされて生きています。
これらは行動をスタートさせる原因には違いないですが、どれもが同じ「やる気」といえるのでしょうか?
よく考えてみると、「美味しいものが食べたい」と「友達と仲良くしたい」は別の問題のような気がします。
やる気という言葉はとても身近でよく使うけれど、あまりその意味やしくみについて考えることはありません。
今回は、やる気の仕組みと種類、やる気とモチベーションの関係を詳しく知りたい人に向けての記事です。
やる気は存在しない?
心理学にはやる気という言葉は存在しません。
やる気という言葉はあいまいであり、私たちの行動の原因なのかプロセスなのか結果なのかはっきりとしないからです。
それを正しく知るために、心理学ではやる気を動機づけ(motivation)の問題と定義し、理論的な解明を進めてきました。
やる気でも動機づけでもどっちでもいいんじゃないの?
日常語として使うにはやる気でもいいですが、「どうして人は行動するのか」という問題を調べるためには、動機づけという概念をしっかりと定義した方が良いのです。
やる気という言葉は意欲という言葉にも置き換えられ、その人が進んで物事に取り組む気持ちという内面の問題としてとらえられることが多いです。
ですが、実際には人間が動くための条件はその人の性格や考え方という内面だけではなく、外側の環境にも多く左右されるのです。
まずはこの動機づけの機能から見ていきましょう。
動機づけの3つの機能
動機づけ(motivation)とは、なぜ行動が生じるのかということを説明するために仮定された心的概念です。
動機づけには、行動を喚起させ、目標に向けて行動を方向づけ、目標達成まで行動を持続するという3つの機能があります。
具体的に、あなたが高校受験を控える受験生だと仮定して考えてみましょう。
- あなたには憧れの高校があり、そこへ入学したいという気持ちが高まります(行動の喚起)
- そしてその高校を受験するための問題集を購入しました(行動の方向づけ)
- それから毎日勉強に励み、見事憧れの高校に入学することができました(行動の持続)
これらの一連の流れを動機づけによって説明することができるのです。
目標があって初めて心が動き出す
動機づけ(motivation)にはまず「〜したい」「〜が欲しい」という行動の喚起が最初にあると述べました。
この行動喚起は、私たちの行動の原因である動機(motive)に基づいています。
両者を混同することが多いのですが、動機は動機づけのプロセスを構成する要素の一つに過ぎません。
先ほどの高校受験の例を用いて、動機づけのプロセスを分解してみましょう。
私たちがやる気という言葉を使うとき、ほとんどはこの動機のことを指しています。
ですが、やる気(動機)というのは、目標があって初めて行動を喚起し、方向づけ、そして達成するまで続けることができるのです。
逆に言えば目標がないのにやる気を出せと言われても、心は宙ぶらりんのまま動き出すことはありません。
生物と機械を分けるものとは
行動の原因となって、行動をスタートさせ、目標に私たちを向かわせる力のことを動機(motive)といいます。
生物と機械の大きな違いは、この動機が備わっているかどうかという部分にあります。
機械やロボットは誰かがスイッチを押したり、操縦しなければ自分から勝手に動き出すということはありません。
それに対して、人間も含めた動物はこの動機が備わっているおかげで、外部の力を待たずに行動を自発することができるのです。
改めて、私たちにはどんな動機が備わっているでしょうか?
- 美味しいものが食べたい
- ゆっくりと昼寝したい
- お金持ちになりたい
- 話題のゲームで遊んでみたい
- 友達と仲良くしたい
もちろん、これら以外にも数え切れないほど、たくさんの動機があります。
その中で人も含めた動物が生き残るために最初に満たさなければならない動機のことを一次的動機(primary drive)といいます。
そして、この一次的動因を土台にして、その上に経験を通して獲得される動因のことを二次的動機(secondary drive)といいます。
両者にはそれぞれ下位の分類があり、一次的動機は生物的動機と内発的動機に、二次的動機は社会的動機と情緒的動機にわけることができます。
動機は一次動機と二次動機に分けられる。
一次的動機:生きていく上で絶対に必要な動機。生まれつき備わっているため個人差はない。
二次的動機:経験によって獲得されている動機。経験によって獲得されるため個人差がある。
ここからは、それぞれの動機の役割について詳しく見ていきましょう。
一次的動機
生物的動機
私たち生き物が生命を維持し、種を保存させるために満たさなければならない生得的な動機のことを生物的動機といいます。
生物的動機には、飢え、渇き、性衝動、睡眠、呼吸、排泄、苦痛の除去、適温維持などがありますが、これらはいずれも身体がバランスを崩しているときに生じることを意味しています。
つまり、飢えや渇きは身体が必要としているものが不足しており、排泄や苦痛は不要なものが身体に過剰にある状態といえます。
生き物の身体には内部環境のバランスを保ち維持するためのホメオスタシス(恒常性維持)という機能が備わっています。
上記のようなアンバランスが生じると生き物の行動はバランスを取り戻す方向に駆り立てられます。
具体的にはそれぞれ、ご飯を食べる、水を飲む、トイレに行く、逃げることによって身体のアンバランスな状態を解消するのです。
リクター(1943)の実験:ラットのホメオスタシス
ラットは冷えた実験箱の中に入れられ、最初は身を丸めてじっとしていました。
やがて動き回り、実験箱の一角に設置されたロール式のトイレットペーパーを発見しました。
そしてラットはローラーから紙を引きずりだして巣(寝床)を作り、その中にもぐりこんだのです。
こうしてラットは、冷気を遮断させることで体温の低下を防止することができました。
このことは私たちが寒いときにはコートを羽織ったり、逆に暑いときにはうちわで扇いだりすることと同じです。
これらも行動的な意味でのホメオスタシスといえます。
内発的動機
かつて、生き物は生物的動機が満たされていて身体内の生理的不均衡がなければ、自発的に行動することはないと考えられていました。
ホメオスタシスの考えに従えば、生命を維持するために十分な身体環境が整えられ、過不足のない状態になっているからです。
しかし、私たちはテレビゲームで遊んだり、クイズを解いてみたり、スポーツを楽しんだり、何かをもらえるわけではないのに夢中で物事に打ち込んだりします。
これらは私たちの生命維持にはなんら関係がありません。
100年前の人類はテレビやインターネットがなくても問題なく生活していたわけですから。
こうした直接的な生命維持とはかかわりなく、見たり、聞いたり、動いたり、頭を使ったりすること自体が報酬になっている動機のことを内発的動機(intrinsic motive)といいます。
内発的動機は、intrinsic(固有の、本来備わった)という単語が意味する通り、大人だけではなく、赤ちゃんや動物にも備わっていることが知られています。
たとえば、生後3〜9ヵ月の赤ちゃんに単純な図形と複雑な図形を見せると、複雑な図形の方に興味を示し、より長く見つめています。
また、サルを何も入ってない単調な箱の中に入れて、その外側でおもちゃの汽車を音が聞こえるように走らせます。そうすると、サルは箱の壁にある窓を空けることを学習し、外の様子を見ようと懸命に行動します。
どちらの行動も、おやつや餌のような具体的な報酬はありませんが、彼らは好奇心(好奇動機)という内発的動機によって何かをなそうとするのです。
内発的動機には他にもゲームを楽しむ操作動機や、頭を使ってクイズを解く認知動機などがあり、私たちの自発的な行動の源になっています。
しばしば職場で上司に「やる気を出せ」と内発的動機を求められる場面が見受けられますが、これは決して人から命令されたり強制されたりしてわいてくるものではありません。
自らが「そうしたい」と思えるからこそ内発的動機といわれるのです。
二次的動機
社会的動機
私たちは社会の中で生活を営み、他者との関わりを持って生きています。そのため、対人関係に関連する動機が、社会生活を過ごしていくうちに形成されていくのです。
こうした他者との関係に基づく動機のことを社会的動機といいます。
ここでは達成動機と親和動機について紹介します。
達成動機
達成動機とは、ある優れた目標を立て、それを高い水準で成し遂げようとする動機のことです。
達成動機に関わる内容としてマレー(1938)は、以下の特徴をあげています。
- 困難なことを克服し高い水準に達すること
- 自然・人間・思想を支配・操作・組織すること
- 自己に打ち勝つこと
- 他者と競争して勝つこと
- 才能をうまく使って自尊心を高めること
そのため、達成動機の高い人ほど上記の特徴を多く備えているといえるわけです。
達成動機に関わる理論としてアトキンソンの達成動機モデルが有名ですが、これは別の記事で詳しく紹介したいと思います。
親和動機
親和動機とは、愛情のこもった友好的な関係を保って人に接しようとする動機のことです。
親和動機の強い人の特徴として長田(1977)は、以下の特徴をあげています。
- 電話や手紙によるコミュニケーションを頻繁に行う
- 友好的な状況では、相手とのアイコンタクトを頻繁に行う
- 他者からの承認を求める行動をよく行う
- 自分と意見の異なる人に対して、反発や強い否定的反応を示す
- 他者から評価を受けるような場面におかれると、反発や強い否定的反応を示す
- 働く同僚として、有能な人よりは親しくなれそうな人を選ぶ傾向にある
また、親和動機は不安や恐怖が高まる状況においても強くなることが知られています。
シャクター(1959)は実験参加者に電気ショックを与えるという予告が、親和動機にどのように影響するのかを調べました。
シャクター(1959)の実験:不安が親和動機に与える影響
高不安条件:電気ショックを与えるという予告をあらかじめ伝える条件
低不安条件:電気ショックについての情報はなにも告げない条件
その結果、「他の実験参加者と同じ部屋で待ちたい」と回答する割合は、
- 高不安条件→63%
- 低不安条件→33%
となり、不安や恐怖が高まると、みんなと一緒にいたいという親和動機が強まることがわかりました。
達成動機と親和動機の関係
一般的に達成動機の強い人は自分の努力次第で成功すると信じ、自分で責任を持つことを好み、自分の仕事の結果を知りたがる傾向にあります。
また、仕事の場面では積極的で成績が比較的良く、仲間と一緒に仕事をする場合には温かい人間関係よりも有能さで相手を選びます。
その一方で、親和動機の強い人は仕事の能率の面では多少不利になったとしても、気心の知れた仲間と温かい友人の関係を保って仕事をすることを好みます。
達成動機と親和動機は対立する概念のように扱われることが多いですが、両者は有能さと人間関係のどちらを優先するかという程度の問題であって、矛盾するものではありません。
情緒的動機
情緒的動機とは、私たちの日々の生活の中で経験した感情によって生じる動機のことです。
- あのゲームセンターでクレーンゲームをして楽しかったから次も行きたい
- あの交差点で車とぶつかって怖い思いをしたから近づかないでおこう
1の場合は楽しいや嬉しいといった感情によって、ゲームセンターという目標に接近するように行動します。
2の場合は恐怖や不安といった感情によって、その交差点という目標から遠ざかるように行動します。
誰もがゲームセンターを楽しんだり、交差点で恐怖を感じたりするわけではありません。
これらはその人自身の体験に基づく情緒(感情)によって生じた動機であり、個人差があることから二次的動機に分類されます。
恐怖の対象が経験によって増えていく例として、アメリカの心理学者ワトソンが行った著名な実験を紹介しましょう。
ワトソンとレイナー(1920)の実験:経験による恐怖反応の獲得
ワトソンとレイナー(1920)は生後9ヵ月のアルバート坊やに対して、まず白ネズミ、ウサギ、イヌ、脱脂綿やお面などを見せて恐怖を示さないことを確かめました。
その後、ワトソンたちは、アルバート坊やが白ネズミに恐怖反応を引き起こすように学習させることができるかどうかを検討しました。
そのためにアルバートに白ネズミを見せてから彼の背後で鉄棒をハンマーで叩く、ということを繰り返したのです。
その結果、アルバート坊やは白ネズミを恐れるようになってしまいました。
さらにこの恐怖反応は、直接恐怖を経験した訳ではないウサギ、イヌ、脱脂綿やお面などにも広がってしまったのです。
これらの研究からワトソンたちは成人にもみられる恐怖症もこのように学習された恐怖反応(条件性情動反応)であると考えました。
まとめ:さまざまな動機の役割
今回はやる気と動機づけ(motivation)の関係について解説し、私たちの行動を内側から駆り立てる動機(motive)について詳しく紹介しました。
もう一度大事なポイントをおさらいしましょう。
- やる気は、心理学では動機づけ(motivation)の問題として扱われる。
- 動機づけには行動を喚起し、目標に向けて行動を方向づけ、目標達成までに行動を持続させるという3つの機能がある。
- やる気とは、行動を喚起する動機(motive)のことを意味している。
- 動機には生まれつき備わっている一次的動機(生物的動機・内発的動機)と経験によって獲得される二次的動機(社会的動機・情緒的動機)に分類される。
私たちが日常的に使う「やる気」は、実際にはこれだけ多くの動機が含まれているのです。
これらのことを知らずに、ただなんとなく「やる気がでない」と思っているだけでは、いつまでも自分から動くことができません。
それぞれの動機の役割を理解し、目標を正しく定めることで、私たちは自ら行動に移せるようになります。
やる気が出ないときほど、「自分は何がしたいのか」「目標は何であるか」ということを考えてみると良いと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。次回もお楽しみに。
文献
今田純雄・北口勝也(共編)(2015) 動機づけと情動 培風館
今田寛・宮田洋・賀集寛(共編)(2003) 心理学の基礎 三訂版 培風館
上淵寿・大芦治(編著)(2019) 新動機づけ研究の最前線 北大路書房
鹿毛雅治(編)(2012) モチベーションをまなぶ12の理論 金剛出版